これらのメモリの違いはご存じだろうか、単純に揮発と不揮発という違いの話ではない。そもそもの話は、歴史をさかのぼる必要があるだろう。1960年代ころの大型コンピュータで使われていた磁気コアメモリ(Magnetic Core Memory) を思い浮かべるかもしれない。確かに、初期のパソコンでも磁気バブルメモリを搭載していた機種もあった。でもパソコンの進化と関連づけて話をするなら少し古いかもしれない。 そう、EPROM、ROM、SRAMで構成されていたころのマイコンあたりから話を始めよう。これらの、動作性質を整理すると、ROM(Mask ROM)は書き換えられない、電源を切っても消えない、無電源での保持期間は100年以上と考えられる。 EPROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)は、電源を切っても消えない、強い紫外線でチップ全体が消去できる。高い電圧をかけて再書き込みできる。つまり書き込む専用の機器が必要です。EPROMは浮遊ゲート(Floating Gate) に電子を閉じ込めて保存します。この電荷が10〜20年以上保持されると言われています。
EPROM つぎの写真は40年以上前のワンボードマイコンです。CPUにはモトローラ社の6809を使ったものです。
6809 左下にEPROMを搭載、同じ並びのソケットのうち右上の位置には、SRAMを挿しています。必要に応じてSRAMやEPROMを追加交換できる作りになっていました。SRAMもEPROMも同じアドレス空間に特別なインターフェイスを介さず繋がっていました。
この辺の年代のPCは、RAMの値段がバカ高くて、最初から搭載しているメモリ容量が小さいのは普通でした。
PC–9801 そして、DRAMが普及し始めたのはこの後頃からです。
SRAM・DRAM・NVMの違いは「揮発・不揮発」だけではない 先に書いた通り、SRAMとEPROMは後で追加・交換できるよう設計されていました。そして、上のPC-9801では拡張ボードでDRAMを追加できました。MaskROMは回路構成そのものがデータであり記録したもので、読みだしても電源を切っても消えない。SRAMは、電子回路的にはトランジスタで構成した論理回路でフリップフロップの論理動作の状態でデータとして記録するもので、読みだしてもデータは消えないが、電源を切ると状態は保存されません。それぞれのデバイスの違いは単純に、揮発・不揮発だけにとどまらず、その記録の仕組みはさまざまな挙動の違いとして現れ、そしてそれらの最適な使い道の違いとして現れます。
同じように、EPROM、DRAMについて整理すると、どちらも電荷でデータを保持する仕組みです。 EPROMは絶縁した浮遊ゲートに電荷をためて、その電荷の有無によって発生する電流の流れやすさ違いで読み出します。それに対してDRAMは電荷をためたその電荷そのものを取り出して読みだす仕組みで動作します。この電荷は絶縁されているわけではないので長くても数分で漏れてしまいます。そこで、定期的に読みだして書き込みなおすことでデータを維持します。書き込みなおす仕組みがないSRAM(Static-RAM)に対応する呼び名として、Dynamic-RAMと呼ばれます。
時間で見るメモリの違い──SRAM/DRAM/NVMの連続性 それぞれのデバイスを特性を表にまとめると、メモリの種類は次のように整理しました。
ここで一つ整理しておきたいのが「NVM(Non-Volatile Memory)」という言葉である。
NVMとは、電源を切ってもデータが保持されるメモリの総称であり、特定の一つのデバイスを指すものではない。 EPROM、EEPROM、フラッシュメモリ、さらにはMRAMやPCMといった新しい記録方式も、このNVMに含まれる。
つまり、NVMとは個別の技術ではなく、「長期間記録を保持できる」という性質による分類 である。
本稿では、これらのNVMを個別のデバイスとして分解し、それぞれの特性を整理していく。
種類/名称 保持方法 書換可 書換上限 電源断時のデータ保持時間 待機電力 (参考) 補足 Gbit単価 今時点 MaskROM 回路構成 × - 数十年〜100年以上 ほぼ0 0.1〜1円 EPROM 電荷 △ 約10²〜10³回※ 約10〜20年以上 ほぼ0 100〜1000円 SRAM 論理状態 ◎ 実質無制限 0(瞬時に消失) 数十〜数百mW / Gbit 1000〜10000円以上 DRAM 電荷 ◎ 実質無制限 数ms〜数十ms 数mW〜数十mW / Gbit 2〜10円 NAND Flash 電荷 〇 約10³〜10⁵回 約1〜10年程度 数百µW〜数mW / Gbit 0.5〜5円 NOR Flash 電荷 〇 約10⁴〜10⁵回 約10〜20年 数mW / Gbit 20〜100円 EEPROM 電荷 〇 約10⁴〜10⁶回 約10〜20年 数µW〜数mW / Gbit 50〜300円 ReRAM 抵抗状態 〇 約10⁶〜10⁹回 約10年以上(目標) 数µW〜数mW / Gbit 50〜200円(試作〜初期量産) MRAM 磁気状態 ◎ 約10¹⁰〜10¹⁵回 約10年以上 数µW〜数mW / Gbit 100〜500円 PCM 相状態 〇 約10⁶〜10⁸回 約10年以上 数µW〜数mW / Gbit 20〜100円
※製品によっては数十回程度のものもある
種類 読み出し速度(レイテンシ) 書き込み速度 補足(本質) Mask ROM 約10〜100 ns × 読み出し専用 EPROM 約50〜200 ns 数ms(高電圧) 書き込みが非常に遅い EEPROM 約100 ns 数ms(バイト単位) 書換が遅い NOR Flash 約50〜150 ns 数百µs〜ms ランダム読み出しが速い NAND Flash 約10〜100 µs 約100 µs〜1 ms(ページ) ブロック単位で遅い SRAM 約1〜5 ns 約1〜5 ns 最速(CPU直結) DRAM 約10〜50 ns 約10〜50 ns 高速だがSRAMより遅い ReRAM 約10〜100 ns 約10〜100 ns DRAM〜Flashの中間 MRAM 約10〜50 ns 約10〜50 ns SRAMに近い高速性 PCM 約50〜200 ns 約100 ns〜1 µs 書込みはやや遅い
👉 キーメッセージ「万能なデバイスはない ⇒ 目的に合わせて適材適所」
「時代によって使えるデバイスが変わる⇒ 供給有無、性能、単価」
なぜ1つのメモリで統一できないのか 前項の表を眺めてみると、いくつかの特徴が見えてくる。
まず最初に気づくのは、メモリごとに「できること」が大きく異なるという点だ。 書き換え回数、保持時間、消費電力、速度、単価──どの項目を見ても、すべてにおいて優れているものは存在しない。
例えば、SRAMは極めて高速に動作し、書き換え回数にもほとんど制限がない。しかし電源を切れば瞬時に消え、しかも単価は非常に高い。 一方でNAND Flashは安価で大容量を実現できるが、書き換え回数には制限があり、書き込み速度も遅い。 DRAMはその中間に位置し、ある程度の速度と容量を両立しているが、電源を切れば保持できない。
ここで重要なのは、これらの違いが単なる性能差ではないという点である。
それぞれのメモリは、「どのくらいの時間、どのようにデータを保持するか」という設計の違いによって生まれている。 SRAMは「いまこの瞬間」に使うための記録であり、DRAMは「しばらくのあいだ保持する」ための記録、そしてフラッシュメモリは「電源を切っても残す」ための記録である。
つまり、メモリの違いとは、そのまま時間の扱い方の違い なのである。
これまで見てきたように、人類はその時代ごとに、これらの特性を組み合わせてシステムを構築してきた。
高速だが消えてしまうメモリ、遅いが長く残るメモリ、それぞれを適切に配置し、役割を分担させる。 キャッシュ、メインメモリ、ストレージという階層構造は、その結果として生まれたものである。
どれか一つで全てを賄おうとするのではなく、複数の性質を組み合わせることで全体として最適化する。 それが、これまでのコンピュータの基本的な設計思想だった。
次の記録技術──ReRAM / MRAM / PCMは何を変えるのか そして現在、その「あいだ」を埋めようとする新しい技術が登場している。
ReRAM、MRAM、PCMといった新しいメモリは、DRAMとフラッシュメモリの中間に位置する特性を持ち、速度と保持性の両立を目指している。
しかし、それらもまた万能ではない。 どの技術も、何かを得る代わりに何かを失っている。
それぞれのデバイスのデータ保持方法はつぎのとおり
ReRAM:抵抗変化 MRAM:磁気スピン PCM:相変化 👉 「磁気スピン」は、何十万年もの間保持されたという実績 もある。MRAMは完ぺきではないが、多層化技術などの進化で単価が大幅に下がれば、大幅な消費電力の削減されるなどでAI進化の壁である電力の壁が大幅に緩和されることだろう。
長期間記録を支えるもの──磁気という選択 MRAM同様に、磁気(スピン)を使った記憶デバイスとしてHDDが存在する。HDDとメモリデバイスと分けたのは製品の壁となる技術の壁が異なる点にある。Flash置き換えが進む一方で、HDDがここまで進化し続けているのは長期的な記録に関する壁も一要因となっている。
磁気による記録は、電荷を閉じ込める方式とは異なり、物理的な状態として安定して存在し続ける。 外部からエネルギーを与えない限り、その状態は自然には変化しにくい。
この「変化しにくさ」こそが、長期間の記録において重要な特性となる。
もちろん、磁気も完全ではない。温度や外部磁界の影響を受け、時間とともにわずかな変化は生じる。 それでもなお、現在の技術の中では、長期間にわたって安定した状態を保ちやすい特性の一つである。
ここで重要なのは、どの方式が優れているかではない。 それぞれの方式が「どのくらいの時間、状態を保ち続けられるか」という点において異なる性質を持っていることである。
すべては途中経過である──人類は記録を最適化し続けてきた これまで見てきたように、記録の方法は一つではない。
回路として状態を保持するもの。 電荷を閉じ込めるもの。 磁気として残すもの。 物質の状態そのものを変化させるもの。
それぞれの時代において、人類は利用可能な技術の中から最適な方法を選び、組み合わせてきた。
そして、その選択は固定されたものではない。 新しい材料、新しい原理、新しい製造技術によって、より良い特性を持つ記録方式が現れれば、それに応じて構成は変化していく。
いま主流となっている方式もまた、最終形ではない。 あくまで、その時点における最適解に過ぎない。
記録技術の歴史とは、単一の理想に到達する過程ではなく、 その時代ごとの制約の中で、最適なバランスを探し続けてきた過程である
最適な記録は“構成”で決まる ここまで見てきたように、すべての特性において優れた単一の記録デバイスは存在しない。
高速なものは保持が難しく、長期保存できるものは書き換えや速度に制約がある。 低消費電力のものは性能に制限があり、高性能なものはコストが高くなる。
これらはトレードオフの関係にあり、どれか一つを選べば他が犠牲になる。
だからこそ、実際のシステムでは複数の記録方式を組み合わせて構成されている。 用途ごとに役割を分け、それぞれの特性を活かすことで、全体としての最適化が図られている。
重要なのは、どの技術を選ぶかではない。 それらをどのように配置し、どのように連携させるかである。
記録とは、単体の性能ではなく、構成によって成立する。
👉 いろいろなデバイスが供給され使えるようになった現在、信頼性の高いシステム、つまり長期に安定して動作するシステムを設計するには、それぞれのデバイスと使用・保持するデータの特性を理解して適切に組み合わせる高度なバランス感覚を持ち次の時代を読み切る力が必要だろう。 関連記事