MRAM・スピントロニクスは何を変えるのか ― AI時代が求める「新しい記録デバイス」| ストレージ再考 第8話

第7話では、ストレージやメモリといったデバイスの特性に合わせて、
システム設計を最適化していく必要がある
、という話をしてきた。

しかし、いま起きている変化は少し違う。

AIは、従来の記録デバイスでは成立しない要求を突きつけ始めている。

その要求に押される形で、これまで主流になりきれなかった技術が、
再び注目され始めている。

その代表が MRAM(磁気メモリ) である。

MRAMとは何か:電気ではなく「磁気」で記録する

従来のメモリやストレージは、基本的に「電荷」で情報を記録している。

  • DRAM:電荷を保持(揮発)
  • NANDフラッシュ:電荷を閉じ込める(不揮発)

これに対してMRAMは、

磁気(スピンの向き)によって情報を記録する

という全く異なる原理を持つ。


▼解説動画
https://www.youtube.com/watch?v=VRJ7xYPMfGA


■ もう少しだけ技術寄りの話(軽く触れる)

MRAMのコアは以下の構造にある:

  • MTJ(Magnetic Tunnel Junction)
  • スピントロニクス
  • STT-MRAM(Spin Transfer Torque)

詳細は以下を参照:


MRAMは新しい技術ではない

MRAMは最近突然現れた技術ではない。

むしろ長年研究されてきたが、主流になれなかった技術である。

その理由は単純だ:

  • 投資が集中しなかった
  • 市場が形成されなかった
  • 既存技術(NAND・DRAM)が強すぎた

■ 技術の優劣ではなく「投資構造」

  • NAND → 巨大市場 → 投資集中 → 爆発的進化
  • MRAM → ニッチ → 投資限定 → 緩やかな進化

しかし今、状況が変わり始めている。

AIという新しい要求が、投資の方向を変え始めている。


MRAMはすでに使われている(ただし“見えない場所”で)

MRAMは未来の技術ではない。
すでに実用化され、いくつかの分野で使われている。

ただしその使われ方には特徴がある。


■ 主な用途

① 組み込みメモリ(SoC内)

  • ファームウェア保存
  • セキュリティ領域
  • 設定データ

② ログ・高頻度更新領域

  • イベントログ
  • 状態保存
  • トランザクション記録

③ キャッシュ・バッファ

  • ストレージ制御
  • ネットワーク機器

④ 車載・産業機器

  • 電源断耐性
  • 高信頼性要求

■ スマートフォンでの利用

近年では、SoC内部の一部領域に組み込みMRAM(eMRAM)が使われ始めている。

例:

  • セキュア領域
  • 制御用データ保持

参考:


■ 重要なポイント

MRAMは現在、
「小さいが重要な場所」に使われている


なぜそこに使われるのか:設計思想が変わるから

特に重要なのが、高頻度更新領域の置き換えである。


■ 従来(フラッシュ)

  • 書き込み回数に制限
  • 書くほど劣化
  • 書き込み最適化が必要

👉 「なるべく書かない設計」


■ MRAM

  • 高い書き換え耐性
  • 電源断でも保持
  • 書き込みコストが低い

👉 「普通に書いていい設計」


これは単なる性能向上ではなく、設計思想の変化である。


AI時代が突きつけた新しい制約

ここで本題に入る。

AIは従来のシステムとは異なる要求を持つ。


■ ① 大量のデータを「近く」に置きたい

  • モデル
  • 中間データ
  • キャッシュ

■ ② とにかく書き続ける

  • 学習
  • ログ
  • 状態更新

■ ③ 電力制約が限界に近づいている

  • データセンターの電力問題
  • 発熱
  • 冷却コスト

AIは「計算」ではなく「配置と電力」の限界を突きつけている。


MRAMが注目される理由:電力構造の違い

MRAMは「電力を使わないメモリ」ではない。

「使わないときに電源を完全に止められるメモリ」である。


■ 比較

技術特徴
DRAMリフレッシュで常時電力消費
NAND書き込み時に高エネルギー
MRAM状態保持に電力不要

■ 重要なポイント

多くのデータは「使われていない時間」の方が長い


👉 その時間の電力を削減できることが、本質的な価値である。


MRAMの現状:主役ではないが確実に入り込んでいる

現時点のMRAMは:

  • コストが高い
  • 容量が小さい
  • 主記憶やストレージの代替にはならない

しかし、効果的なポイントに限定して使われ始めている。


■ 今後の分岐点

DRAMレベルまでコストと容量が近づいたとき、状況は変わる可能性がある


ただし重要なのは:

それは単なる価格競争ではなく、
AIの要求と一致したときに起こる変化である

MRAM
MRAM

未来:ノイマン型の限界とその先

現在のAIは、

  • CPU / GPU / TPU
  • メモリ分離構造

👉 ノイマン型コンピュータの延長上にある


しかしその先では:

記録と計算が一体化した構造へと進む可能性がある


■ 脳との類似性

人間の脳は:

  • 高密度
  • 低消費電力
  • 再学習による適応

例えば:

  • 脳卒中後のリハビリ
    → 完全修復ではなく再構成

■ コンピューティングも同じ方向へ

壊れても動くのではなく、壊れても適応する


MRAMのようなメモリは、

  • 書き続けられる
  • 状態を保持できる
  • 局所配置できる

👉 この構造と非常に相性が良い


結論:求められているのは「壊れないこと」ではない

最後に、この回の結論をまとめる。


これからの記録デバイスに求められるのは、
壊れないことではなく、適応できることである。


MRAMはまだ主役ではない。

しかし、

  • AIの要求
  • 電力の制約
  • 配置の問題

これらが交差したとき、

ストレージとメモリの前提そのものを変える可能性を持っている。


関連記事

SRAM/DRAM/NVMの違いとは?記録と時間で読み解くメモリ構造 | ストレージ再考 第7話

これらのメモリの違いはご存じだろうか、単純に揮発と不揮発という違いの話ではない。そもそもの話は、歴史をさかのぼる必要があるだろう。1960年代ころの大型コンピュータで使われていた磁気コアメモリ(Magnetic Core Memory)を思い浮かべるかもしれない。確かに、初期のパソコンでも磁気バブルメモリを搭載していた機種もあった。でもパソコンの進化と関連づけて話をするなら少し古いかもしれない。
 そう、EPROM、ROM、SRAMで構成されていたころのマイコンあたりから話を始めよう。これらの、動作性質を整理すると、ROM(Mask ROM)は書き換えられない、電源を切っても消えない、無電源での保持期間は100年以上と考えられる。 EPROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)は、電源を切っても消えない、強い紫外線でチップ全体が消去できる。高い電圧をかけて再書き込みできる。つまり書き込む専用の機器が必要です。EPROMは浮遊ゲート(Floating Gate)に電子を閉じ込めて保存します。この電荷が10〜20年以上保持されると言われています。

EPROM
EPROM

つぎの写真は40年以上前のワンボードマイコンです。CPUにはモトローラ社の6809を使ったものです。

6809
6809

左下にEPROMを搭載、同じ並びのソケットのうち右上の位置には、SRAMを挿しています。必要に応じてSRAMやEPROMを追加交換できる作りになっていました。SRAMもEPROMも同じアドレス空間に特別なインターフェイスを介さず繋がっていました。

この辺の年代のPCは、RAMの値段がバカ高くて、最初から搭載しているメモリ容量が小さいのは普通でした。

PC-9801
PC–9801

そして、DRAMが普及し始めたのはこの後頃からです。

SRAM・DRAM・NVMの違いは「揮発・不揮発」だけではない

先に書いた通り、SRAMとEPROMは後で追加・交換できるよう設計されていました。そして、上のPC-9801では拡張ボードでDRAMを追加できました。MaskROMは回路構成そのものがデータであり記録したもので、読みだしても電源を切っても消えない。SRAMは、電子回路的にはトランジスタで構成した論理回路でフリップフロップの論理動作の状態でデータとして記録するもので、読みだしてもデータは消えないが、電源を切ると状態は保存されません。それぞれのデバイスの違いは単純に、揮発・不揮発だけにとどまらず、その記録の仕組みはさまざまな挙動の違いとして現れ、そしてそれらの最適な使い道の違いとして現れます。

同じように、EPROM、DRAMについて整理すると、どちらも電荷でデータを保持する仕組みです。 EPROMは絶縁した浮遊ゲートに電荷をためて、その電荷の有無によって発生する電流の流れやすさ違いで読み出します。それに対してDRAMは電荷をためたその電荷そのものを取り出して読みだす仕組みで動作します。この電荷は絶縁されているわけではないので長くても数分で漏れてしまいます。そこで、定期的に読みだして書き込みなおすことでデータを維持します。書き込みなおす仕組みがないSRAM(Static-RAM)に対応する呼び名として、Dynamic-RAMと呼ばれます。


時間で見るメモリの違い──SRAM/DRAM/NVMの連続性

それぞれのデバイスを特性を表にまとめると、メモリの種類は次のように整理しました。

ここで一つ整理しておきたいのが「NVM(Non-Volatile Memory)」という言葉である。

NVMとは、電源を切ってもデータが保持されるメモリの総称であり、特定の一つのデバイスを指すものではない。
EPROM、EEPROM、フラッシュメモリ、さらにはMRAMやPCMといった新しい記録方式も、このNVMに含まれる。

つまり、NVMとは個別の技術ではなく、「長期間記録を保持できる」という性質による分類である。

本稿では、これらのNVMを個別のデバイスとして分解し、それぞれの特性を整理していく。

種類/名称保持方法書換可書換上限電源断時のデータ保持時間待機電力
(参考)
補足
Gbit単価
今時点
MaskROM回路構成×数十年〜100年以上ほぼ00.1〜1円
EPROM電荷約10²〜10³回※約10〜20年以上ほぼ0100〜1000円
SRAM論理状態実質無制限0(瞬時に消失)数十〜数百mW / Gbit1000〜10000円以上
DRAM電荷実質無制限数ms〜数十ms数mW〜数十mW / Gbit2〜10円
NAND Flash電荷約10³〜10⁵回約1〜10年程度数百µW〜数mW / Gbit0.5〜5円
NOR Flash電荷約10⁴〜10⁵回約10〜20年数mW / Gbit20〜100円
EEPROM電荷約10⁴〜10⁶回約10〜20年数µW〜数mW / Gbit50〜300円
ReRAM抵抗状態約10⁶〜10⁹回約10年以上(目標)数µW〜数mW / Gbit50〜200円(試作〜初期量産)
MRAM磁気状態約10¹⁰〜10¹⁵回約10年以上数µW〜数mW / Gbit100〜500円
PCM相状態約10⁶〜10⁸回約10年以上数µW〜数mW / Gbit20〜100円

※製品によっては数十回程度のものもある

種類読み出し速度(レイテンシ)書き込み速度補足(本質)
Mask ROM約10〜100 ns×読み出し専用
EPROM約50〜200 ns数ms(高電圧)書き込みが非常に遅い
EEPROM約100 ns数ms(バイト単位)書換が遅い
NOR Flash約50〜150 ns数百µs〜msランダム読み出しが速い
NAND Flash約10〜100 µs約100 µs〜1 ms(ページ)ブロック単位で遅い
SRAM約1〜5 ns約1〜5 ns最速(CPU直結)
DRAM約10〜50 ns約10〜50 ns高速だがSRAMより遅い
ReRAM約10〜100 ns約10〜100 nsDRAM〜Flashの中間
MRAM約10〜50 ns約10〜50 nsSRAMに近い高速性
PCM約50〜200 ns約100 ns〜1 µs書込みはやや遅い

👉 キーメッセージ
「万能なデバイスはない ⇒ 目的に合わせて適材適所」

「時代によって使えるデバイスが変わる⇒ 供給有無、性能、単価」


なぜ1つのメモリで統一できないのか

前項の表を眺めてみると、いくつかの特徴が見えてくる。

まず最初に気づくのは、メモリごとに「できること」が大きく異なるという点だ。
書き換え回数、保持時間、消費電力、速度、単価──どの項目を見ても、すべてにおいて優れているものは存在しない。

例えば、SRAMは極めて高速に動作し、書き換え回数にもほとんど制限がない。しかし電源を切れば瞬時に消え、しかも単価は非常に高い。
一方でNAND Flashは安価で大容量を実現できるが、書き換え回数には制限があり、書き込み速度も遅い。
DRAMはその中間に位置し、ある程度の速度と容量を両立しているが、電源を切れば保持できない。

ここで重要なのは、これらの違いが単なる性能差ではないという点である。

それぞれのメモリは、「どのくらいの時間、どのようにデータを保持するか」という設計の違いによって生まれている。
SRAMは「いまこの瞬間」に使うための記録であり、DRAMは「しばらくのあいだ保持する」ための記録、そしてフラッシュメモリは「電源を切っても残す」ための記録である。

つまり、メモリの違いとは、そのまま時間の扱い方の違いなのである。

これまで見てきたように、人類はその時代ごとに、これらの特性を組み合わせてシステムを構築してきた。

高速だが消えてしまうメモリ、遅いが長く残るメモリ、それぞれを適切に配置し、役割を分担させる。
キャッシュ、メインメモリ、ストレージという階層構造は、その結果として生まれたものである。

どれか一つで全てを賄おうとするのではなく、複数の性質を組み合わせることで全体として最適化する。
それが、これまでのコンピュータの基本的な設計思想だった。


次の記録技術──ReRAM / MRAM / PCMは何を変えるのか

そして現在、その「あいだ」を埋めようとする新しい技術が登場している。

ReRAM、MRAM、PCMといった新しいメモリは、DRAMとフラッシュメモリの中間に位置する特性を持ち、速度と保持性の両立を目指している。

しかし、それらもまた万能ではない。
どの技術も、何かを得る代わりに何かを失っている。

それぞれのデバイスのデータ保持方法はつぎのとおり

  • ReRAM:抵抗変化
  • MRAM:磁気スピン
  • PCM:相変化

👉
「磁気スピン」は、何十万年もの間保持されたという実績もある。MRAMは完ぺきではないが、多層化技術などの進化で単価が大幅に下がれば、大幅な消費電力の削減されるなどでAI進化の壁である電力の壁が大幅に緩和されることだろう。


長期間記録を支えるもの──磁気という選択

MRAM同様に、磁気(スピン)を使った記憶デバイスとしてHDDが存在する。HDDとメモリデバイスと分けたのは製品の壁となる技術の壁が異なる点にある。Flash置き換えが進む一方で、HDDがここまで進化し続けているのは長期的な記録に関する壁も一要因となっている。

磁気による記録は、電荷を閉じ込める方式とは異なり、物理的な状態として安定して存在し続ける。
外部からエネルギーを与えない限り、その状態は自然には変化しにくい。

この「変化しにくさ」こそが、長期間の記録において重要な特性となる。

もちろん、磁気も完全ではない。温度や外部磁界の影響を受け、時間とともにわずかな変化は生じる。
それでもなお、現在の技術の中では、長期間にわたって安定した状態を保ちやすい特性の一つである。

ここで重要なのは、どの方式が優れているかではない。
それぞれの方式が「どのくらいの時間、状態を保ち続けられるか」という点において異なる性質を持っていることである。


すべては途中経過である──人類は記録を最適化し続けてきた

これまで見てきたように、記録の方法は一つではない。

回路として状態を保持するもの。
電荷を閉じ込めるもの。
磁気として残すもの。
物質の状態そのものを変化させるもの。

それぞれの時代において、人類は利用可能な技術の中から最適な方法を選び、組み合わせてきた。

そして、その選択は固定されたものではない。
新しい材料、新しい原理、新しい製造技術によって、より良い特性を持つ記録方式が現れれば、それに応じて構成は変化していく。

いま主流となっている方式もまた、最終形ではない。
あくまで、その時点における最適解に過ぎない。

記録技術の歴史とは、単一の理想に到達する過程ではなく、
その時代ごとの制約の中で、最適なバランスを探し続けてきた過程である


最適な記録は“構成”で決まる

ここまで見てきたように、すべての特性において優れた単一の記録デバイスは存在しない。

高速なものは保持が難しく、長期保存できるものは書き換えや速度に制約がある。
低消費電力のものは性能に制限があり、高性能なものはコストが高くなる。

これらはトレードオフの関係にあり、どれか一つを選べば他が犠牲になる。

だからこそ、実際のシステムでは複数の記録方式を組み合わせて構成されている。
用途ごとに役割を分け、それぞれの特性を活かすことで、全体としての最適化が図られている。

重要なのは、どの技術を選ぶかではない。
それらをどのように配置し、どのように連携させるかである。

記録とは、単体の性能ではなく、構成によって成立する。

👉
いろいろなデバイスが供給され使えるようになった現在、信頼性の高いシステム、つまり長期に安定して動作するシステムを設計するには、それぞれのデバイスと使用・保持するデータの特性を理解して適切に組み合わせる高度なバランス感覚を持ち次の時代を読み切る力が必要だろう。

関連記事

NAS HDDの知らないと危ない ― SMRとCMRとの違い・内部処理・電源断リスクを解説

故障したNAS(LS210D)の復活をしてみよう:交換用HDDの機種選定までの検討でふれたSMR(Shingled Magnetic Recording)とCMR(Conventional Magnetic Recording)の話です

HDDの選択は、この2つの違いを理解したうえで、用途に合わせてHDDを選択するべきですね。ところが、SMRなのか、CMRなのか情報がほとんど公開されてないですよね。さらにそれは、外付けHDDとなった時点で、さらに分かりにくい状態になっていると思います。NAS用途では特にその問題が顕著です。これは多くのユーザーやNAS運用者が感じている共通の問題だと思います。

SMRとCMRの違いって、一般利用者には理解しがたい仕組みだと思います。よく瓦型という表現で説明されますが、それが何を意味しているのかを、分かるように解説してくれる人はほとんどいないんじゃないでしょうか?動画とかで、動的に解説しないと理解するのは難しいでしょう? 分かりやすい動画があったので紹介しておきます。

参照元:https://ytscribe.com/pt/v/wtdnatmVdIg


13分頃から、CMRとSMRについて解説されています。
それから、 過去からの記録密度を上げてきた歴史がかなり端折って紹介されています。別途その歴史の話をまとめてみましょうか…ね。

動画では瓦状に磁気記録されているかのように見せていますが、実質は上書きされるので上書きされた部分は消えるということです。つまり、ディスク面の内から外、もしくは外から内と隣のトラックが使われていないことを前提に順番に書き込む必要があります。従来使われているかどうかの管理は、OSレベルのNTFSや、ext4などのディスクシステム管理で行うだけでした。これを、SMRでは、HDD内部で書き込み順の管理を行い、TPI(Tracks Per Inch トラック密度)を上げることで、面記録密度を上げる工夫をしています。

SMR HDDの内部で起きていること|NASでSMR HDDが問題になる理由

書き込み順管理・電源断時処理・コンセント抜きのリスク

SMRでは、後から書いたトラックが前のトラックの端を部分的に上書きします。そのため途中のトラックだけを書き換えると隣も壊れるという性質があります。そのためSMRではトラック単位の部分書き込みができません。更新が必要な場合、内部でデータを別の場所へ書き直す処理が発生します。

SMRで行われる実際の処理

SMR HDDでは内部で次のように書き込み順管理の処理を行います。Drive Managed SMR(DM-SMR)ではOSはSMRを知らないためHDD内部で管理します。管理要素は主に「LBA → 物理位置、ゾーン書き込みポインタ、無効ブロック」があります。HDDにより、どこに永続的に保持するかは変わりますが、磁気記録領域などから読みだしてHDD内のDRAM上に置いて管理します。DRAMは電源を切ると消えるので、管理情報は定期的にディスク側へ書き戻されます。多くのSMRではログ構造で管理され、電源投入時に整合性チェックを行って復旧します。これにより何が起こるのかというと、CMRの場合の電源断時はDRAM上のキャッシュを磁気記録するのを待つだけです。それに対して、SMRの場合は、書き込み順番を調整・管理しながらキャッシュを書き込んで、さらに管理情報を磁気記録し終わるのを待つ必要があります。このため、NASの電源スイッチを切ってもすぐにはディスクへの書き込みは終わらずかなりの時間待たされることがあります。

補足:
なおSMRには
Drive Managed(DM-SMR)
Host Managed(HM-SMR)
Host Aware(HA-SMR)
の3種類があります。一般に市販されているHDDの多くはDM-SMRです。

コンセントを突然抜くと何が起きるか

ここが重要なポイントです。SMRでは通常HDD(CMR)より影響が大きい可能性があります。


①DRAMキャッシュ消失

未書き込みデータが消えます。これは通常HDDでも同じです。


②マッピング更新途中で停止

例えば

旧データ

新データ

マッピング更新

の途中で電源断すると

参照先が失われる

可能性があります。

多くのSMRでは

ログ構造

で復旧するよう設計されていますが

最悪の場合

ゾーン単位破損

が起きる可能性があります。
※電源スイッチで電源を切っても、NASが停止するのに時間がかかるのは、このような状況を防ぐためです。しかし、コンセントを足で引っ掛けて抜いてしまうとか、落雷で停電とかいくらでも突然電源が落ちることはありえるので、無停電電源とか工夫が必要です。


③ガーベジコレクション途中停止

SMRでは

ゾーン再配置(ゾーン内のデータ整理(ガーベジコレクション))

が頻繁に行われます。

途中で停止すると

未完了状態

になります。

再起動後

復旧処理

が走ります。


④ゾーン整合性修復

起動時に

SMR内部チェック

が行われます。

これが

電源投入後の長い待ち時間

になる場合があります。


なぜNASで問題が起きやすいのか

NAS用途では

ランダム書き込み
大量のファイル更新
RAID rebuild

が発生します。

SMRは

順次書き込み向け

なので

内部GC

書き込み遅延

RAIDタイムアウト

が起きることがあります。


まとめ

SMR HDDは

トラックを瓦状に重ねる

部分書き込み不可

内部ログ構造

マッピング管理

という HDD内部にSSD的な管理構造を持つストレージ です。

そのため

電源断
内部GC
メタデータ更新

などの影響を受けやすく特にNAS用途では CMRより挙動が複雑 になります。

SMR は「昔で言うところの 磁気テープの高速版と思って使え」って感じですかね

昔、コンピューターを使っていることを端的に表現したある作品に磁気テープの映像が使われていました。テープが巻き取られたり、戻ったりしながら動いているものです。テープでもランダムアクセスができていました。それにかなり近いイメージですね。その映像はこちら。

26秒あたりなど複数個所で登場します。コンピュータ周りでメカニカルに動くものといえば、この辺の機器だったのでしょう。

そして、いまだに、HDDはメカニカルに動く数少ないコンピュータ関連機器として存続しています。この先も当面この状態は続きそうです。少なくとも、スピントロニクスなど次世代記録技術が安価に普及する時代が来るまでは。


関連記事

故障したNAS(LS210D)の復活をしてみよう:交換用HDDの機種選定までの検討

購入して2年?ほど使っているNASが故障し、アクセスできなくなりました。電源を投入すると、LEDが赤点滅する状態でした。これを使えるようになんとか復旧してみましょう。

分解前チェック(LS210D0401G)

具体的な症状はつぎのとおり、電源スイッチをONにすると、最初LEDが白色点滅、そしてHDDがスピンアップする周波数が上がる音、それに続いてリトラクト音のあとスピンダウンして、静かになる。その後、数秒してLEDは赤色7回点滅にかわり、その後、7回点滅が繰り返されます。5分程度待っても赤色7回点滅のまま変わりません。
HDDは故障しているかどうかは微妙な感じだが、少なくともクラッシュしている音ではない。
 電源OFFにすると、LEDは白色点滅のまま、2分以上たっても白色点滅のまま変わらないので、仕方なく電源プラグを抜いて強制停止するしかありません。
ACアダプタ電源については、他のNASで正常稼働しているアダプタと交換してみましたが、状況に変わりまありませんでした。
 LANのリンクランプは電源プラグを挿している間は緑点滅しています。が、固定設定したIPへのPINGは応答がありません。もちろんWeb管理画面にはアクセスできません。また、BUFFALO NAS Navigator2でも見つけられません。

NAS故障

電源投入と電源OFFの動画です。

※電源投入直後のLAN挙動は、製品挙動の理解には参考になるが、NAS復活には意味がないので、やっていません。

HDD交換しても治りそうにないかどうかの判断を、どこかでする必要がありますが、今の段階では、判断できるネタがありません。また、このNASは、NAS全体で多重化しており、お金を払ってまで復旧する必要があるデータはありません。なので、つぎは分解調査に移行します。
※どうしても復旧したいデータがあればデータ復旧サービスを使って復旧させましょう。ちなみに、以前データ回収用のシェアウェアを公開してました。

NASの分解調査

分解ですが、ゴム足の下にはねじはない。シールの下にはねじはなさそうです。
背面パネルと全面パネルは別パーツだが、隙間などは特に見えない。すくなくとも背面はコネクタやスイッチ類があるのでスライドさせてはめ込むような構造にはなっていない。

NAS前面

NAS背面(後面)

NAS Top
NAS top

NAS上面

NAS Right
NAS right

NAS下面 

NAS左面 右面

前面の下側に少し隙間があり、少しこじ開けると左右に爪があるように見える。しかし、前面パネルの右側は側面パネルと一体のようにも見える

実際には右面・前面・後面が一体 、左面・下面・上面が一体という構造になっていました。この2つのコの字のカバーを組み合わせる構造でした。

ねじ
ねじ

右側の足の中に締め殺し?のネジがあるようです。これをはずして、上の写真のつめを順に外して、抜いていくと分解できます。
結構傷はついてしまうでしょうが。。。

NAS_open
NAS
NAS HDD
NAS HDD

分解後のHDDの調査

型番を確認します。型番 は、ST4000DM005でした。

hsBoxのデータ救出機能を使ってデータを取れるか試してみます。情報によるとLS210DはExt4でフォーマットされているようなので、マウントできれば普通に読める可能性はあります。

残念ながら、NAS分解して取り出したHDDは、調査用のPCでは認識できず、マウントまでたどり着けませんでした。 取り出したHDDの調査は別途行いましょう。

交換用のHDDの選択

あえていろいろチャレンジしてみようかと思います。NASに使えなくてもデスクトップ内蔵の追加ドライブには使えるので、6TBに挑戦してみましょう。

 このNASで使用していたのは、ST4000DM005でした。これはSMRでした。CMRのドライブに変えるか?。という話になりますが、そもそも、SMRとCMRってなにってことになりますよね。その2つについて検討してみましょう。

SMRとCMRの違いって何?

この違いは、FlashとHDDの特性の違いくらいの違いがあります。理解したうえで使えば問題ないのでしょうが、知らずに使って原因がよくわからないトラブルが頻発していたりしないでしょうか?
パーツショップなどでは、SMRかCMRかは明記されていないケースがほとんどです。HDDは容量と値段だけで選んでいませんか? あと静音や熱か速度を気にして回転数で選ぶくらいでしょうか?  SMRかCMRかを考慮して選んでいまますか?
CMR(Conventional Magnetic Recording)は昔ながらの書き込み方式で、隣のトラックに影響がないように書き込むトラック間隔を設計した方式です。それに対してSMR(Shingled Magnetic Recording)は、書き込むトラックの順番を限定することで、隣のトラックへの被せ書きを許容してトラック密度を上げる設計をした方式です。
SSDと同じような感じで、技術的な説明が利用者には正しく伝えられていないので、理解できないまま不適切な使い方をしているかもしれません。

SMRのメリットは、記録密度が上がるので、容量単価を下げられる。要するにお安く手に入れることができるということです。
その反面、書き込み順に制限があるため、書き換え・ランダムな書き込みに弱い、といったデメリットがあります。

PCの外部記憶用のNASであればランダムな書き込みや上書き更新は当たり前のように発生するので、CMRのほうがよいでしょう。

参考:SMR?CMR?HDDの書き込み方式は2種類
   CMRとSMRの違いとは?HDD選びで失敗しない解説と比較ポイント
Multi-Tier Caching Technology

💰 ② 記録密度と容量単価

✔ SMR のメリット

  • トラックを重ねて書けるため、同じ枚数のプラッタでより多くのデータを詰める
    高い記録密度 を実現
  • 同容量であれば部品数は変わらないため、TBあたり価格が低くなる傾向がある。

実例(一般的傾向例):

種類容量価格/台価格/1TB
CMR4TB105$26.25$/TB
SMR4TB95$23.75$/TB

※ 実売価格は変動しますが、概ねSMRは1TBあたり10〜20%安くなる傾向という観測が存在する。⇒とGPTは答えているが、本当か? ほかにも回転数やサイズなど条件が変わると価格も変わるので、その時点で利用目的も考慮して確認するのが良いでしょう。

📌 容量限界の違い

HDDの記録方式別容量限界の傾向:

  • CMR(従来磁気記録): ~16TB級
  • SMR: 16〜20TB級(そして28TB/30TB以上のモデルも登場)

これは SMR のトラック密度の高さによるものです。

観点CMRSMR
現状出荷割合(推定)企業・NAS用途で多い大容量・アーカイブ用途で増加
記録密度中〜高高い
容量単価やや高い傾向やや低い傾向
性能ランダム・更新安定ランダム更新で制約あり
トレンド特定用途で根強い大容量需要で伸びている

具体的なHDDの選定検討

ここまでの検討結果からの基本方針は、記録方式はSMRではなくNAS向きのCMR、NASの転送速度なら5400rpmで十分で、あとは値段で6TBか4TBかを選択しましょう。現時点(2026年2月時点)の各メーカーのラインナップを確認しました。BARRACUDAIRONWOLF、でBARRACUDAはこの辺のクラスはSMR方式でした。CMRなのはIRONWOLFです。ということで、シーゲートだと型番はST6000VN006か、ST4000VN006ですね。
WDだと、WD40EZAXですね。

交換用HDDの機種選択の結論

型番容量価格1TB単価/補足
Seagate
ST6000VN006 
6TB31,400円5233円/NAS向け
ST4000VN006 4TB21,980円5495円/NAS向け
Western Digital
WD40EFZZ
4TB29,177円7294円/NAS向け
WD40EZAX
WD40EZZX
4TB21,766円5441円

 この結果から、ST4000VN006 にすることにしました。この価格は2026/2/23時点のものではありますが、HDDの単価は誰のせいでか、爆上がり中です。本当に買えるかどうかは分かりません。逆に少し待てば、元に戻っている可能性はあります。
それから、SMRとはどういうものなのかが理解され始めたのか、CMRとSMRの価格差が拡大しているようにも感じます。

次回は、購入したHDDを使ってNAS復活に挑戦です。

関連記事

ストレージ関連記事

https://mic.or.jp/info/2026/03/06/smr-hdd-nas-problem-cmr/