コンクリート劣化の引き金は「急乾燥」だけではなかった ―― AEの集中発生4回を気象データと重ねて検証

AEセンサーが捉えたコンクリートの「悲鳴」の集中発生4回を、気象庁の10分値と重ねて検証しました。雨上がりの急乾燥だけでなく、強風や強い雨で壁が濡れる「急な湿潤」でもAEが集中していました。

90%→40%)との関係を紹介しました。ただ、あのときは気象データとの一致を文章で説明しただけで、データを並べて見せてはいませんでした。取り上げたAEの集中発生も1回だけでした。

その後も記録を続け、ログを整理し直したところ、AEが短時間に集中して発生した場面は合計4回ありました。今回は4回それぞれについて、気温・湿度・雨・風の推移とAEの発生タイミングを1枚のグラフに重ね、コンクリート劣化の引き金を検証します。

結論を先に書くと、引き金は「急乾燥」だけではありませんでした。強風や強い雨で壁が一気に濡れる「急な湿潤」の場面でも、AEは集中して発生していました。現場の定点カメラの画像でも、発生の前後に壁が濡れていた様子を確認できています。

今回使ったデータとグラフの見方

  • AE:壁に取り付けた自作のAEロガー(4チャンネル)の記録です。しきい値を超えた信号を、時刻と振幅で記録しています。
  • 気象:気象庁「過去の気象データ検索」の10分ごとの値(気温・相対湿度・降水量・平均風速・最大瞬間風速・日照時間)を使いました。観測点は現場から少し離れた近隣の地点です。
  • 定点カメラ:壁を10分ごとに撮影している定点カメラ(ATOM Cam 2)の画像で、発生前後の壁の濡れ具合を確認しました。

プライバシーに配慮して、今回のグラフでは日付と観測地点名を伏せ、横軸を「AE集中発生からの経過時間」(発生の60時間前〜12時間後)にしています。グラフは上から、日照・気温・湿度・降水量(10分ごと)・風速・AE検出数の順です。赤い破線がAEの集中発生時刻、一番下の灰色の斜線は記録が止まっていた区間です。AE検出数は、1件と100件を同じグラフに収めるため対数目盛にしています。

ログを整理して分かった2つの注意点

  1. 時刻の「桁あふれ」:ロガー内部の経過時間カウンター(ミリ秒単位)は、約49.7日で一周してゼロに戻ります。そのまま読むと、実際より約50日前の日付に見えてしまいます。時刻合わせの記録と照合して補正したところ、見落としていた集中発生が見つかりました。
  2. メモリ満杯による記録停止:記録用のメモリ(EEPROM)は128件で満杯になります。4回のうち3回は、集中発生の最中に満杯になって記録が止まっていました。グラフの件数は「少なくともこれだけ発生した」という値です。

イベント① 雨上がりの急乾燥(前回のケース)

イベント①のグラフ。雨上がりの晴天で湿度が87%から40%まで下がり気温が上がった後、乾燥のピーク直後にAEが43件集中して発生している
イベント①:雨上がりの急乾燥。乾燥のピークを過ぎた直後にAEが集中

2日前の雨で、湿度は100%近くありました。そこから晴れて、発生までの約10時間で湿度は87%→40%、気温は8.5℃→19.5℃と一気に変わっています。直前24時間の雨はゼロで、風も穏やか(最大瞬間風速6m/s程度)でした。

AEの集中発生(43件・約11分間)は、乾燥が最も進み、日照が切れて湿度が底から戻り始めた直後に起きています。同じ日の朝、乾燥が急に進み始めた時間帯にも小さな集中(4件)がありました。表面だけが乾いて縮み、湿った裏側との差で反ろうとする力が拘束されてひび割れる、という前回の仮説と合う結果です。

定点カメラの画像では、このときの壁はまだしっとりと湿り気を残していました。空気は一気に乾いても、壁はすぐには乾ききっていなかったことになります。なお、AEの出方は11分間で43件と、後で紹介する②〜④(数秒間に69〜108件)に比べるとずっと穏やかでした。

イベント② 大雨から約10時間後

イベント②のグラフ。乾燥した晴天の後に約46ミリの大雨で湿度が100%に達し、雨が上がって約10時間後にAEが69件集中して発生している
イベント②:乾燥→大雨の後、約10時間たってからAEが集中

2日前は湿度40%前後の乾いた晴天でした。その後雨になり、発生当日の未明から朝にかけて約46mmの大雨(1時間に最大13.5mm)が降り、湿度は100%に張り付きました。

AEが集中した(69件・約6秒間)のは、雨が上がってから約10時間後です。そのときは湿度91%・ほぼ無風・雨なしで、気象データの上では発生の瞬間に目立った変化はありません。

ところが定点カメラの画像を見ると、壁は朝から全面が湿った状態で、それが夕方まで続き、暗くなってから濡れた状態に変わったように見えます。AEが集中したのは、ちょうどこの時間帯です。観測点では雨が記録されていないため、局所的なにわか雨だったのか、湿った空気で壁の表面が結露したのかは、まだ分かりません。

イベント③ 暴風雨の始まり

イベント③のグラフ。雨が続いた後、最大瞬間風速が約16メートルから28メートルへ急に強まり始めた瞬間にAEが108件集中して発生している
イベント③:雨の後、風が急に強まり始めた瞬間にAEが集中

2日前の午後は、気温30℃・湿度40%を切る乾燥した日でした。そこから雨になり、発生までの24時間の雨量は35.5mmです。

AEの集中発生(108件・約9秒間)は、最大瞬間風速が約16m/sから30分ほどで28m/sまで一気に強まり始めた、その瞬間でした。28m/sは記録期間中で最も強い風です。センサー付近は雨粒が直接当たる場所ではありませんが、強風のときは霧状になった雨が吹き込んで壁が濡れます。強風で壁が急に濡れた可能性があります。なお、雨を伴わない強風の日(最大瞬間風速16〜17m/s)にはAEの集中は起きていないので、風そのものが原因とは考えにくいです。

現場でも風は相当なものでした。AE発生の10〜20分ほど前に、定点カメラが強風で吹き飛ばされて向きが変わってしまい、このときの壁の様子は写っていませんでした。

イベント④ 梅雨の長雨と強い雨

イベント④のグラフ。湿度ほぼ100%の長雨が2日半続き、10分間に4ミリから6.5ミリの強い雨が繰り返す中でAEが94件集中して発生している
イベント④:長雨の中、強い雨が繰り返す合間にAEが集中

湿度ほぼ100%が2日半続く梅雨の長雨でした。発生までの雨量は24時間で51.5mm、60時間では143.5mmに達しています。

AEの集中発生(94件・約4秒間)の約1時間半前には10分間に4mmの強い雨が2回続き、その直後には最大瞬間風速も9m/s台まで強まっていました。発生の約20分後にも、10分間に6.5mmの強い雨が降っています。

定点カメラの画像では、発生の40分〜2時間ほど前に、壁の全面が湿った状態に変わっていました。強い雨と風が重なった時間帯なので、風で吹き込んだ雨で濡れたと考えられます。壁が濡れてから少し時間をおいて、AEが集中したことになります。

4回を並べて見えた、コンクリート劣化の2つの引き金

タイプイベントAEの出方直前24時間の雨量気象の状況定点カメラで見た壁
急乾燥①43件/約11分0mm晴天で湿度87%→40%。乾燥のピークの直後まだしっとり湿っていた
急な湿潤②69件/約6秒46.0mm大雨の約10時間後(雨なし・湿度91%)暗くなってから濡れた様子
急な湿潤③108件/約9秒35.5mm最大瞬間風速が約16→28m/sへ強まり始めた瞬間直前にカメラが強風で吹き飛ばされ確認できず
急な湿潤④94件/約4秒51.5mm強い雨と風の後、次の強い雨の直前発生の40分〜2時間ほど前に全面が湿った状態に
AE集中発生4回の比較(気象は近隣の観測点の値)

前回の①は「湿った状態から一気に乾く」変化でした。②〜④はその逆で、「壁が一気に濡れる」変化が起きた場面です。②と④は定点カメラでも濡れを確認でき、③も強風で雨が吹き込む状況でした。コンクリート劣化の引き金は、乾燥そのものではなく乾湿の急な変化だと考えたほうが、4回とも説明しやすくなります。

AEの出方にも違いがあります。①は11分かけてゆっくり43件だったのに対し、②〜④は数秒のうちに69〜108件が集中しました。今回の4回を見る限り、「急な湿潤」のほうがAEは短時間に激しく出ています。

ただし、雨量だけでは決まらない

記録が残っている期間に、1日20mm以上の雨が降った日は13日ありました。そのうちAEの集中発生につながったのは3つの雨の期間だけです。1日40mm前後の雨の日や、1時間に13〜14mmの強い雨が降った日でも、AEの集中発生は起きていません。

③では強風、④では短時間の強い雨が重なっていました。雨量だけでは決まらず、強風や短時間の強雨で壁が実際に濡れるかどうかが効いている可能性がある、というのが現時点での見立てです。

なぜ「濡れる」と音が出るのか(仮説)

前回は「表面が乾いて縮もうとするのに、湿った裏側と周囲に拘束されて縮めない。その結果、表面に引っ張る力が集中してひび割れる」と説明しました。今回の結果は、その逆向きの変化でも同じことが起きうることを示唆しています。

  • 表面の吸水膨張:乾いていた表面が急に水を吸うと、表面だけが膨らもうとします。すでにある微細なひびの面どうしが押し合ったり、ずれたりすることで、音(AE)が出る可能性があります。④で壁が濡れてから少し遅れてAEが集中したのも、水を吸って膨らむまでに時間がかかると考えれば説明がつきます。
  • 乾湿の往復による疲労:「乾く→濡れる→乾く」の急な往復が繰り返されると、同じひびが何度も開いたり閉じたりして、少しずつ進行していくと考えられます。
  • 背面の土圧・水圧の増加:大雨の後は、壁の裏側の土に水が溜まり、壁を押す力が増えます。表面が濡れて膨らもうとする力に、この力が重なっている可能性もあります。

いずれもまだ仮説の段階です。

残っている疑問

  • ②〜④のAEは、振幅がほぼ一定で数秒間に集中しています。振幅がばらつきながら11分間続いた①とは性質が違います。壁を伝う水の流れなど、ひび割れ以外の音を拾っている可能性も、まだ完全には否定できません。
  • ②で暗くなってから壁が濡れた原因(局所的な雨か、結露か)は分かっていません。定点カメラは10分ごとの撮影で、夜間は見えにくいという限界もあります。
  • 気象データは近隣の観測点のものなので、現場とは雨の降り方や風向きが違う可能性があります。
  • メモリ満杯などで記録が止まっていた期間があり、夏の大雨の一部は検証できていません。

次にやること

  • 定点カメラの固定強化:③では強風でカメラの向きが変わり、肝心の場面が写っていませんでした。嵐の日でも壁を撮り続けられるように固定し直します。
  • ロガーの改良:満杯で止まらないように記録容量を増やし、時刻の補正を自動化します。可能であれば、波形そのものも保存したいところです。
  • 濡れセンサーの追加:壁の表面が濡れた瞬間とAEの発生を、直接比べられるようにします。

まとめ

  • ログを補正して整理すると、AEの集中発生は4回ありました。
  • 1回は雨上がりの「急乾燥」、3回は強風や強い雨で壁が濡れる「急な湿潤」の場面でした。定点カメラでも、②と④で発生の前後に壁が濡れていたことを確認しました。
  • AEは、「急な湿潤」のほうが数秒のうちに激しく集中していました。
  • 雨量だけでは決まらず、壁が実際に濡れるかどうかが効いている可能性があります。
  • コンクリート劣化の原因は「乾燥」だけでなく、「乾湿の急な変化」として捉え直す必要がありそうです。

次は、濡れセンサーやロガーの改良で「壁が濡れた瞬間」とAEを直接比べられるようにして、続報でお伝えします。

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出典:気象データは気象庁「過去の気象データ検索」の10分ごとの値をもとに加工して作成しました(観測地点名は非公表)。

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